いちじくの花

あたしはイチジク、略してあーイク

限度額

 水爆と自慰のことで頭が真っ白になり怒られ続けた勤務を終えて、吹き飛ばされそうにからっぽのおれはせめて中身を詰めようとフラフラとラーメン屋に向かう。塩と油にまみれた刺々しいラーメンの味はどこかしら自傷の感覚に似ていて、自分がめちゃくちゃになって行くのが心地好く吐き気がするまで啜り続けてしまう。糖を血液に溶かされたおれはドンブリを下ろした時から射精のことばかり考え、帰り道のバスに乗りながらエロサイトを巡り淫靡な漫画をショッピングカートに投げ込んで行く。汗まみれの全身の中心がむわんと我慢汁の臭いをさせ、反対側に座っている小学生の女児も本能でしかめつらを作っている。バスの道のりはそんなに長くないからおれは女の裸をあらいざらい見つけては実験動物の猿のようにひたむきにクレカの番号を打ち込み、家に着く頃には指は疲れ果て、なれども攻撃的な部分だけは勃起して、心は全身がほんとうに芯から死ねる瞬間を待ち望み狂っている!

 家についてからのことはよく覚えていない。ただ色褪せて悲しい風景が広がっていたような気がする。大量に買われたエロ漫画も一つを除いては開かれることなくタブを閉じられ、見るだけで気怠さを催すそれは少しずつ意識の外へと追いやられておれとは無関係の1と0の列になってゆく。

 不意におれは生きているこの肉体が恥ずかしくて仕方がなくなる。おれが打ち込んだクレジットカードの番号で困っている友達がいくらかは助けられただろうし、おれが自傷のようにして食べたものを糧として育った筈の子供たちもどこかにいる。おれが受かったせいで大学に行けなかった真面目な受験生がいれば、おれがこの安アパートを占拠してだらだらと怠けてばかりいるせいで高い家賃に追われて喘いでいる労働者だっているだろう。おれが生きているせいで肩身の狭い思いをしている人間が探せばいくらでもいる。だのにおれはと言えばただ苦しみの要請するままにからっぽの自らを埋め立て傷付け、せっかく呑み込んだものを白くどろどろとしたものに変えてきたならしい角から吐き出してしまう。原罪をどうすることもできない。生きていることが恥ずかしい!

 湿りはじめた秋風の音を聞きながらおれはぼんやりとゴキブリのことを思い出す。行くあてもなくフラフラと御堂筋を南へ歩いていると、夕方の雨に押し出されたのだろう下水の臭いがヌワッと地表へ這い出て来て、空にかえってゆく水に乗っておれの全身を包んでいた。道行く人々は顔を歪ませながらつかつかと先を急ぎ、その足元には5匹ばかりのゴキブリが人波を縫って歩んでいる。家の中にいると蛇蠍の如く嫌われる連中だが、この雨上がりの御堂筋ではさして気にする者はいない。ぼんやりと眺めながら歩いている間におれもそれらを気にしなくなったようで、いつの間にか見失ってしまっていた。踏み潰されてしまったのか、今もどこかで子孫が生き延びているのか、そのどちらでもうれしいな、救われるな、とおれは思っていた。